わ・た・く・し

妄想と虚構の狭間。

秘教の書

 

パティアは地下に潜って生きている。
文を書き、酒を飲み、そして文を書き、また酒を飲んで生きている。
いつから、と問われればいつからだろう。
世間に合わせたような文章は到底書けないから、彼女は自分の書きたいものを書く。
それで食べている気になっている。
晴れた日には時折、自分の詩集を持って、大聖堂へ続く通りの際へ出ている。
道往く観光客相手に自分の詩集を売っている。
詩集だけでは商売にならないから、似顔絵を書いている。
通りすがりの異人たちは、ほとんど見向きもせずにパティアの前を過ぎていく。
似顔絵と言っても、けして上手くはないから、お愛想程度のものである。
似顔絵でも商売にならないから、パティアはマジックも見せている。
台の上に並べた不思議な小道具が魔術の道具のように見えるらしい。
信心深い人は見向きもせずに通り過ぎていく。
それでも日に幾人かは足を止めてパティアのマジックに見入る。
秘教の魔術だとでも思っているらしい。
傍の詩集を手にとって、眺めるものもいる。
パティアの詩文やとりとめのない落書きを、秘儀の書とでも思うらしい。
片言の英語で話しかけられ、片言の英語で応える。
マジックに魅入られて、その本が売れる。
パティアは詩を書いて生きている。
そして詩人になったつもりでいる。